宝物 |
絶対にゴミとしか思えない紙切れとか、コンクリートのかけらとか、何かの生き物の脚(?)らしき物が息子の机の中にある。イヤ、部屋に散らばっている。
妻はもちろん、掃除するときにゴミとして扱うわけだが、息子は泣き叫びながら抗議をして、掃除機に吸い込まれる前に奪い返す。もちろん、二人は激しい口論の末にいつも妻がおれる形となって、「大事なモノなら、しまっておきなさい!」と言うが、息子はもうそんなこと聞いていない、取り返した宝物をウットリとながめている。
困ったモノだと思うが、私にも思い当たる節がある。
というか、ものスゲーいっぱいある。
例えば、石ころとか集めた。その中で黒くてツルツルしているのに、1ケ所だけギザギザになってる(この辺が気に入っていた)ヤツがあった。うん、そうそう!あった、あった!いつもそのギザギザ石が主人公なのだ。拾い集めた他の石とか、枯れた木片とかで戦いをするストーリーをやっていた。そして、いつも危ない目に遭うのが何かのビンの栓(少しゆがんでいて、何か不幸な生い立ちが感じられるかわいそうな栓君。珍しいメーカーの栓)だった。
それをいじめる悪者軍団から栓君をギザギザ石君が救うのだ。
私の口から発せられる擬音と共に、ものスゲー白熱の戦いが行われ、クライマックスで机の上から落ちそうになった可哀想な栓君!
「ずしゃーっズルズル〜」「うわぁー!!!」絶体絶命だ!
「待ってろ!今助けるぞッ」
救出に走るギザギザ君に後ろから卑怯にも…!
という良い所で、「ご飯よ!何してるの!」って声で、いつも「つづく」になっていたモノだぜ!うん、私もやっておりました。思えば、あの頃に多くの物語を作っていたのである(大袈裟である)。そうそう、そんなこんなで、母にそのギザギザ君一式を捨てられたことがある。
……で、私はヒミツの隠し場所をもうけたのだった。屋根の上で、えーと、説明できないくらい完璧な隠し場所だった。缶に入れて丁寧にしまったものだ。懐かしいぞ。
その後、私は上京し、実家の家族も引っ越しして、廃屋となったあの家は今、宝物と一緒につぶされて、駐車場になっている。
私は何か大事な宝物を無くした。
もちろん、家と共につぶされて無くなったからじゃない。
そう、私は大人になってしまった。
大人の宝物はお金がかかる。
子供の宝物は拾ってくる。
大人の宝物は高ければ高いほど価値がある。
子供の宝物は誰にも価値を決めさせない!